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妊娠初期検査

 初期検査(8~12週)ではABO血液型、Rh血液型、赤血球不規則抗体、梅毒検査、HBs抗原、HCV抗体、HIV抗体、HTLV-I抗体、風疹ウイルス抗体価、トキソプラズマ抗体、末梢血一般検査、血糖検査、子宮頚部細胞診、細菌性膣症検査を行います。

血液型(ABO式・Rh式) 赤血球不規則抗体

 緊急時に備えて、正確な血液型をあらかじめ調べます。また、お母さんの血液型と赤ちゃんの血液型の組み合わせが合わずにお母さんの免疫が赤ちゃんを「異物」として攻撃してしまう「血液型不適合妊娠」を見つける意味もあります(赤血球不規則抗体検査)。血液型不適合妊娠があれば、赤ちゃんが貧血になり、心不全を来したりむくんだり(浮腫)することがあり、厳重な管理が必要となります。当院では、いつでも型のあった輸血が出来るように妊娠経過中に2回血型および不規則抗体測定を行っています。

風疹抗体

 別名三日はしかとも言われる感染症です。症状は発疹、発熱、リンパ節の腫脹などですが無症状で経過する方も少なくありません。妊娠20週までに初めて風疹に罹患すると、赤ちゃんへウイルスが感染することがあり、赤ちゃんの眼、心臓、耳に影響を及ぼす場合があります(先天性風疹症候群)。感染した場合の治療方法はありませんが、風疹ウイルスはワクチン接種により予防が可能です。学校で定期接種が行われていましたが、制度変更などにより女性では1996-1978年生まれ、男性では20歳以上が免疫の低い世代と言われています。抗体が無いと風疹に感染しやすくなり、感染しても無症状な事も多いため知らないうちに周囲に感染を拡げることが心配されます。風疹感染は社会全体で減らす必要があります。夫やパートナーなど男性にも抗体価を測定していただき、抗体価が十分でない場合にはワクチン接種をお願いしています。抗体価が16倍以下の妊婦さんには、妊娠中にワクチン接種はできませんので、分娩後にワクチン接種を行うようお願いしています。退院前に説明させていただきます。

トキソプラズマ抗体

 トキソプラズマとは寄生虫の一種で、ヒトを含む哺乳類や鳥類に寄生します。加熱処理が不十分な生肉の摂取、土いじり、猫との接触などから感染します。最近はやりのジビエや生ハムなどは要注意です。体内感染を起こすと、赤ちゃんの頭に水が溜まったり(水頭症)、胎児発育不全の原因となるため、妊娠中の初感染が疑われた場合は抗生物質での治療を行います。

血糖

 血糖は体を動かす上で重要なエレルギー源ですが、母体の高血糖が長期間続くと母児に様々な合併症を引き起こすことがあります。児に対しては、妊娠前の高血糖は胎児形態異常のリスクを高めるとされています。また、妊娠中の母体高血糖は赤ちゃんのメタボリックシンドロームや糖代謝異常を増やす可能性が指摘されています。母体の高血糖状態には妊娠糖尿病と糖尿病合併妊娠の2タイプがあります。妊娠糖尿病は妊娠をきっかけに糖尿病のような体質になりますが、ほとんどの場合産後の血糖値は正常な状態に戻ります。しかし、将来的(10〜20年後)に糖尿病になる可能性が高いと言われています。糖尿病合併妊娠は、糖尿病のあるかたが妊娠した場合を指します。妊娠前から糖尿病の治療をしっかり行い、妊娠中も血糖値のコントロールが良い状態が理想であり、血糖コントロールが良ければ母児へのトラブルも少なくなります。

B型肝炎

 B型肝炎ウィルス(HBV)は血液や体液によって感染し、急性肝炎・肝硬変のリスクとなります。お母さんがHBVキャリア(ウィルス感染していても発病してない状態)であれば、赤ちゃんにも感染するリスクがあります(胎内感染5%)。赤ちゃんに出生直後・乳児期にワクチン接種をすることで防ぐことが可能であり、妊娠中に分かっておく事が重要です。

C型肝炎

 C型肝炎ウィルス(HCV)は血液や体液によって感染し、急性肝炎・肝硬変のリスクとなります。お母さんがHCVキャリア(ウィルス感染していても発病してない状態)であれば、赤ちゃんにも感染するリスクがあります(胎内感染10%)。赤ちゃんに感染したとしても適切な治療を行えばHCVを排除できます。

成人T細胞白血病ウィルス(HTLV-1)抗体

 ヒトT細胞白血病ウイルス1型(Human T-cell leukemia virus type 1:HTLV-1)はHTLV-1に感染すると白血球の一つであるリンパ球の働きが弱くなります。HTLV-1に感染していても95%の方は生涯病気になることはありません。しかし、一部の人はATL((Adult T-cell Leukemia:成人T細胞白血病)などを引き起こすと言われています。性行為・献血による血液感染もありますが、母乳感染が主な経路です。母乳育児により赤ちゃんがキャリア(ウィルス感染していても発病してない状態)となる可能性があるため、もしキャリアであることが分かれば児の出生後の授乳方法や出生後の児の経過観察について、当院産科・小児科スタッフや地域保健師などと連携し安心して出産に望める体制を準備します。

AIDSウィルス(HIV)抗体

 HIV (Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス)に感染することにより免疫が下がった状態をAIDS(エイズ:後天性免疫不全症)と言います。HIVは性行為・血液・母子感染が主な感染経路です。検査で陽性となった場合でもほとんどの場合が擬陽性(検査で陽性となるが実際には感染していない)ですが、精密検査で3%程度に感染が確認されます。近年ではAIDS発症を長期間にわたり抑制できるように薬剤が開発されており、適切な母子感染予防対策を行えば児への感染率は0.5%以下まで抑えることが出来ます。母体の感染が確認された場合は高知大学と連携しながら妊娠管理、分娩について準備を行います。

梅毒

 原因は梅毒トレポネ−マという菌です。主な感染経路は性行為ですが、キスでも感染が広がるため近年感染者が増えています。一度治療しても終生免疫が獲得されるわけではなく、再度暴露されると再び感染します。初期症状は口や陰部周囲にできるしこりや潰瘍が出現することで気づかれる場合がありますが、症状に乏しく気がつかないこともあります。抗生剤を内服することで治療することができます。妊娠初期(妊娠20週頃まで)に感染すると、赤ちゃんに感染し先天性梅毒と呼ばれる状態(骨・目・耳などの機能に障害が出現します)となることがありますが、早期に治療することで防ぐことが出来ます。

子宮頸がん検査

 子宮の入り口(頸部)に発生するがんを子宮頸がんといいます。原因はHPV(Human papillomavirus ヒトパピローマウィルス)による感染と言われ、若い女性に発生しやすいがんの一つです。ワクチンで予防できますが、日本では諸事情により普及が進んでおらずほとんどの方が感染のリスクがあります。また妊娠中は接種できません。子宮頸部の細胞の異常を認めた場合、より詳細な組織検査を行います。検査結果により対応方法が変わるため、できるだけ早くに結果が分かっていることが必要になります。非常にまれですが、妊娠を中断し子宮頸がんの治療を優先することもあります。

膣内細菌検査

 膣内の細菌のバランスが崩れていないかどうか確認します。バランスが崩れていると膣・子宮に炎症が波及し早産リスクが高くなるとされています。細菌性膣症と診断された場合には、抗菌薬(メトロニダゾール錠剤)を内服することで正常細菌のバランスを早期に整えることが出来ます。

クラミジア抗原検査

 性器クラミジア感染症は、クラミジア・トラコマティスという病原菌により引き起こされ、日本での性感染症の中で最も患者数が多いとされています。クラミジア感染症は、産道を通して赤ちゃんに感染することがわかっており、新生児クラミジア結膜炎、咽頭炎、肺炎などの原因となります。母子感染予防には妊娠初期に母体クラミジア子宮頚管炎の有無を調べ、クラミジアが検出された場合には抗菌薬の内服治療を行います。またその場合には、パートナーにも同時期に検査・治療を受けていただくことを強く推奨しています。せっかく治療してもパートナー間で再度感染してしまう可能性があるからです。パートナーのご協力をよろしく願いいたします。